2021年8月18日

奇妙な男・リゴンドー

不思議な人間である。彼はプロボクサーである。それも類まれな才能を持ったプロボクサーであり茶番劇のロマチェンコ戦以外に負けていない事実上の無敗選手だ。全盛期のドネアにさえ勝利している。その彼がパンチを振り回すしか能のないカシメロと対戦するなら、闘牛士宜しくカシメロをきりきり舞いさせるだろう。そう予測した。そして確かにカシメロのパンチは悉く空を切りまともなパンチは一発も当てられなかった。

違っていたのは、闘牛士であり鋭い剣でカシメロを突き刺し倒すはずのリゴンドーが最後まで剣を使わなかったことだ。
ただヒラリヒラリとよけ続け、ロープ際でカシメロをいなし2~3度カシメロを無様にロープに頭を突っ込ませたことぐらいで、カシメロをあしらいはしたが一切ファイトをしなかった。

つまりボクシングのタイトルマッチでありながらボクシングをしなかった。
2~3発当てて見せたが相手を打ち倒すためのボクシングではなくただの舞踏だたった。
試合の判定が出て負けを知った時リゴンドーは驚いていたが、驚いたのは観客だろう。
ボクシングのリングに上がって戦わず踊りを見せて試合に勝ったと思う彼を誰も理解できない。
彼のボクサー(舞踏家?)人生はこの日で終わった。もう誰も彼のプロモーションをやらないだろう。


彼のあの技術を持ってすれば、ボクシングでカシメロを支配することもできたはずだ。
事実カシメロもとちゅからカウンターンターを恐れ思い切った突込みができなくなっていた。
いやもうよそう。彼の考えるボクシングが私たちの考えるボクシングとは違っていたのだ。

戦わない天才ボクサー

彼はボクシングの歴史に、『奇妙なボクサー』という新しいジャンルを増やしそこに名を残した。
但し誰からも称賛されることのないジャンルだ。
人生に向き合わなかった奇妙なボクサーの最後の試合。
奇妙なボクサーがボクシング界から消えた、ただそれだけの試合だった。

 


コメント(2)

  1. 元気な爺さんより 

    モハメド・アリも後半は戦わないボクサーになったように感じました。
    「蝶のように舞い蜂のように刺す」とか言って、リングの中を舞うばかり。
    あの頃から私はボクシングに対する興味を殆ど無くしてしまいました。

  2. 元気な爺さんより 

    私はカシアス・クレイの頃の彼は大好きでしたが、サナギから蝶になって徴兵拒否を始めたころから嫌いになりました。
    ついでにボクシングまであまり好きでなくなったのが残念です。

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